【秘史】キャッチ・アズ・キャッチ・キャン存続の聖地——スネークピットジャパンが辿った知られざる遍歴と激動の歩み

Notes

日本の格闘技史において、プロレスの原点であり“最強のサブミッション技術”と称されるキャッチ・アズ・キャッチ・キャン(C.A.C.C.)。イギリスの炭鉱町ウィガンにあった伝説のジム「スネーク・ピット(蛇の穴)」の技術と精神を受け継ぎ、東京・高円寺でその伝統を護り続けてきたのがスネークピットジャパン(U.W.F.スネークピットジャパン)です。

表舞台の華々しい総合格闘技ブームの裏側で、このジムがどのような理念で設立され、初代パンクラス・バンタム級王者・井上学をはじめとする実力者を輩出しながらどのような激動の変遷を辿ってきたのか。その知られざる歴史を紐解きます。

1. 設立の背景:UWFの血統と「本物のC.A.C.C.」を求めて

スネークピットジャパンの起源は、元UWFインターナショナルのレスラー兼幹部であった宮戸優光の強い情熱に遡ります。

1990年代半ば、UWF系の団体が崩壊・変容していく中で、宮戸は「自分たちが追求してきた強さの原点とは何か」を再確認しようとしました。それこそが、かつてカール・ゴッチやビル・ロビンソンが修行した英国ウィガンのビリー・ライレー・ジム(通称スネーク・ピット)に伝わる古流キャッチ・アズ・キャッチ・キャンでした。

1999年、宮戸は「U.W.F.スネークピットジャパン」を設立。本家の精神を正式に継承するジムとして、東京・高円寺に拠点を構えました。

2. ビル・ロビンソン招聘と「人間発電所」の知恵の継承

スネークピットジャパンの歴史において最大の転機となったのが、英国プロレス界の至宝であり“人間発電所”の異名を持った伝説の名手、ビル・ロビンソンの最高顧問(ヘッドコーチ)就任です。

ロビンソンは来日後、ジムに常駐して熱心な指導を行いました。彼がもたらした技術は、単なる力任せの関節技ではなく、解剖学や物理学(テコと支点)に基づいた徹底的に無駄のないものでした。

  • 「力を使うな、構造を使え」:相手の骨格構造と自重を利用して関節を極める技術体系。
  • 徹底的なディフェンスとコントロール:相手に何もさせないポジションの攻防。

このロビンソンの指導により、ジムは「世界で唯一、本物のC.A.C.C.を完全な形で学べる聖地」として格闘技界にその名を轟かせました。

3. C.A.C.C.イズムの結晶:井上学と総合格闘技(MMA)での証明

スネークピットジャパンの技術が総合格闘技のリングで最高度の結実を見せた象徴的な存在が、初代パンクラス・バンタム級王者・井上学です。

レスリングをバックボーンにスネークピットジャパンへ入門した井上は、ビル・ロビンソンと宮戸優光から直接C.A.C.C.の精髄を叩き込まれました。

  • 「倒して削る」C.A.C.C.流レスリングの体現 井上学のファイトスタイルは、ロビンソンの教えそのものでした。相手に一切の隙を与えない強烈なテイクダウンと、密着して相手の体力を奪うトップコントロール、そして痛みを伴うポジション攻撃で、パンクラスの激戦区を勝ち抜きました。
  • ベルト戴冠とジムの看板 2008年、川原誠也との王座決定戦を制して初代パンクラス・バンタム級キング・オブ・パンクラシストを獲得。プロレス由来のC.A.C.C.技術が、現代のMMAリングでもトップレベルで通用することを証明し、スネークピットジャパンの生粋の強さを天下に示しました。

また、井上以外にも鈴川真一をはじめとするプロレスラーや格闘家たちが強さのバックボーンを求めて門を叩き、C.A.C.C.の「相手をコントロールし尽くす技術」を身につけていきました。

4. 時代の波とバトンタッチ:ロビンソンの死とジムの変容

ジムは常に順風満帆だったわけではなく、数々の激動と試練を乗り越えてきました。

  1. 2014年:ビル・ロビンソンの死去 師父であるロビンソンが85歳で死去。ジムにとっては精神的支柱を失う最大の危機となりましたが、宮戸優光やロビンソンから直接教えを受けた指導陣、そして井上学のように技術を体現したファイターたちが「教えを歪めずに伝える」決意を固め、伝統を維持しました。
  2. 多角的な武術・格闘技の受け入れ C.A.C.C.の指導を核としながらも、システマや沖縄拳法空手など、他の実戦武術・格闘技との交流やクラス開設を実施。武術の本質を探求する「総合的な鍛錬の場」へと進化を遂げました。

5. 身体を創る「食の伝統」:スネークピット流ちゃんこの真価

スネークピットジャパンを語るうえで絶対に外せないのが、プロレス伝統の「ちゃんこ」文化の継承です。宮戸優光代表は、力道山時代から新日本プロレス、UWFへと受け継がれてきた「レスラーの強さを支える食生活」をジムの重要要素として位置付けました。

UWF流「秘伝の出汁と栄養設計」 単なる高カロリー食ではなく、過酷なC.A.C.C.の稽古に耐えうる肉体作りのため、鶏ガラや昆布から丁寧に出汁をとり、野菜とタンパク質を大量かつ効率的に摂取できる栄養バランスが徹底追求されています。

ビル・ロビンソンも愛した味 最高顧問として長年ジムに滞在したビル・ロビンソンも、この手作りのちゃんこ鍋を大いに気に入り、若い選手たちと同じ鍋を囲んで絆を深めました。

一般向け「ちゃんこ教室」と食文化の発信 ジムでは会員や一般向けにも「ちゃんこ教室」や食事会を開催。厳しい技術指導だけでなく、「食を通じて強くなる」プロレス独特の生活美学を一般に広く伝える役割も果たしました。

まとめ:高円寺に残り続ける「プロレスの源流」

多くの格闘技ジムが時代の流行(柔術ブームやフィットネス重視)に合わせてスタイルを変えていく中、スネークピットジャパンは一貫して「プロレスの母体となったキャッチ・アズ・キャッチ・キャン」の技術と、それを支えるちゃんこをはじめとしたプロレス文化の誇りを守り続けています。

ビル・ロビンソンが伝え、井上学がリングで証明し、宮戸優光が守り抜いてきた技術と食の体系。スネークピットジャパンは、現代日本において「ストロングスタイルの遺産」を真の意味で受け継ぎ、未来へと紡ぐ稀有な聖地であり続けています。がリングで証明し、宮戸優光が守り抜いてきた技術体系。スネークピットジャパンは、現代日本において「ストロングスタイルの遺産」を真の意味で受け継ぎ、未来へと紡ぐ稀有な聖地であり続けています。

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